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カッシーナ社の家具100点を、1000㎡もの会場に一堂にそろえ、技術とデザインが融合した歴史的な名作を、一気に鑑賞できるのがこの
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建築好きのための展覧会ガイド(1)ル・コルビュジエ
 建築家がデザインした家具は、家具デザイナーがデザインした家具とはちょっと違うように感じる。建築家の家具には、見た目がきれいとか、使いやすいというだけでなく、その建築家の空間に対する考え方が凝縮されている。あるいは、使いやすさは二の次で、自身の建築哲学の実現を追求したようなものもある。そういう意味で、建築家の家具は、小さくても「建築」なのである。

 「メイド・イン・カッシーナ」展では、30人のデザイナーによる家具が、作家別に展示されている。その中には建築家も数多く含まれており、筆者のような“建築好き”にも楽しめる構成だ。「建築の視点からリポートを」というリクエストなので、建築家がデザインした家具に絞って見所を紹介させていただく(イラストも筆者)。

 作家別展示の最初にあるのは、おなじみル・コルビュジエのコーナーである。
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 ル・コルビュジエは1887年にスイスで生まれ、主にフランスで活躍した建築家。フランス国内に「ロンシャンの礼拝堂」(1955年) や「ラ・トゥーレット修道院」(1960年)などの傑作を残したほか、日本でも上野の「国立西洋美術館」(1959年)の基本設計を担当した。ちなみに、「ル・コルビュジエ」という名前は、もともとは雑誌寄稿用のペンネームで、本名はシャルル・エドゥアール・ジャンヌレという。

 ル・コルビュジエは、いとこのピエール・ジャンヌレと、後に家具・インテリアデザイナーとして活躍するシャルロット・ペリアンとのコラボレーションにより、「LCシリーズ」と呼ばれる家具群を製作した。
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 ル・コルビュジエには、「住宅は住むための機械である」という有名な言葉がある(1923年発表の『建築をめざして』より)。工業材料を使い、必要最小限の機能によって、そこで暮らす人が快適に生活できる空間をつくり出す──そんな意味だと思われるが、「機械(machine)」という表現が当時のアカデミズムの人たちの反感を買った、というのもうなづける。

 1920年代後半に製作されたアームチェアの「LC1」や、寝椅子の「LC4」は、文字通り「機械」っぽい可動機構を持っている。特にLC4は、コルビュジエ自身が「休息のための機械」と呼んだというほどのお気に入りだ。

 可動機構はないものの、筆者がコルビュジエらしいな、と感じるのは、一人がけのソファ「LC4」だ。特に、本展で展示されている白いレザーのLC4を見ていると、どうしてもあの建物に見えてくる。重量感のある白い塊を細い柱で持ち上げ、あたかも宙に浮かんでいるように見せた、あれだ。
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 そう、これはまさしく、コルビュジエの住宅の代表作、「サヴォア邸」(1931年、パリ郊外)ではないか。

 ル・コルビュジエには、これまた有名な「近代建築五原則」という宣言があって、この五原則に一番ぴったりはまるのがサヴォア邸だといわれる。ちなみに五原則とは、「ピロティ」「屋上庭園」「自由な平面」「横長の窓」「自由な立面」である。

 白いソファを細い足で持ち上げる発想は、まさにピロティ。五原則の最初がピロティであるところからも、ル・コルビュジエの「宙に浮かす」ことへの並々ならぬ執着がうかがえる。

 おそらくソファの底面がべたっと床についていたとしても、座り心地はほとんど変わらないだろう。しかし、それではル・コルビュジエにはNGだったのだ。建築家にとって、家具は「小さな建築」なのだから。

取材/宮沢洋=日経アーキテクチュア副編集長
by madeincassina | 2009-04-28 22:43 | 宮沢洋
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